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現役ITエンジニアが危惧する、日本の子どものデジタル格差

ITエンジニアの現場では、パソコンに慣れている人とそうでない人の差を、日々はっきり感じます。

最初からすべてを知っている必要はありません。けれど、わからないことを調べる、試す、失敗して直す、仕組みを考える。そうした姿勢は、子どもの頃からの体験の積み重ねで育ちます。

「2030年には国内でITエンジニアが最大79万人不足する」──経済産業省が示したこの数字は、もはや業界内部だけの問題ではありません。子育て世代が今まさに向き合うべき、教育と将来の問題です。

そしてその不足を埋める──あるいは埋められない──のは、今まさに育ちつつある子どもたちです。

採用・育成の現場に立つエンジニアたちが共通して感じているのは、「入社後に急速に伸びるエンジニア」と「なかなか伸びないエンジニア」の差が、しばしば子ども時代のパソコン体験の量と質に根ざしているという実感です。プログラミングの基礎概念を直感的に理解するうえで、思春期前に積み上げた自由な試行錯誤の体験が、後の職業的成長に深く影響するというのです。

PC格差は経済格差そのもの

この感覚をデータが裏付けています。調査によると、年収200万円未満の世帯では家庭のパソコン保有率が38.5%にとどまるのに対し、年収1,000〜1,500万円の世帯では92.7%に達します。スマートフォンは低所得世帯でも広く普及していますが、プログラミング学習・動画編集・文書作成といった「創造的なデジタル活動」にはパソコンが不可欠です。スマートフォンは「消費」の道具であり、「生産」の道具ではありません。

年収200万円未満の世帯:PC保有率 38.5%
年収1,000〜1,500万円の世帯:PC保有率 92.7%
──この54ポイント超の差が、子どものデジタルキャリアの入口格差を生んでいます。

この格差は学力にまで連鎖します。年収200万円未満の家庭の中学3年生は、年収1,500万円以上の家庭の子どもと比較して、数学の正答率が20ポイント以上低いというデータがあります。デジタルツールへのアクセスが学習効率に直結する時代において、この差はさらに広がるリスクをはらんでいます。

GIGAスクール端末が「解決策」ではない理由

「でも学校のタブレットがあるじゃないか」という声はよく聞きます。GIGAスクール構想によって小中学生への1人1台端末配布は大きく進みましたが、エンジニアの目線からは、これが根本的な格差解消につながっていないことがわかります。

学校貸与端末には利用制限があり、自由なプログラミング環境の構築や、自分だけのゲーム・アプリ制作、思いついたアイデアをすぐ深夜に試す──という「好奇心主導の探索」ができません。ITエンジニアを育てるのは、授業ではなく「自由な試行錯誤の時間」です。Pythonのコードを写して動かした、ゲームを作ろうとして失敗した、LinuxやHTMLをいじって壊した──そういった原体験が、後のキャリア選択に深く影響します。それは自宅にパソコンがある子どもにだけ与えられた機会です。

見えない格差を放置しない

2030年に79万人のIT人材が不足するとき、その欠員を埋めるのは現在の子どもたちです。しかし今のままでは、デジタルキャリアへの入口が「家庭の経済力」によって左右される構造が固定されてしまいます。デジタル格差は、放置すれば世代を超えて引き継がれる社会問題です。

デジタルこどもBASEでは、家庭にパソコンのない子どもへの無償提供と、放課後に自由に使える開放スペースの提供を通じて、この見えない格差に向き合っています。エンジニアが育つ土壌は、学校の授業の中だけにはありません。すべての子どもに、試行錯誤できる環境を。

参考資料