子どもがAIを使うことに、不安を感じる保護者は少なくありません。
宿題に使ってしまうのではないか。考える力が弱くなるのではないか。間違った情報を信じてしまうのではないか。そうした心配は自然なものです。
一方で、子どもとAIの距離は、親の認識をはるかに超えた速度で縮まっています。
NTTドコモのモバイル社会研究所が2026年3月に発表した調査によると、中学生の生成AI利用率は4割を超え、前年比で約3倍という急激な伸びを記録しました。小学生でもベネッセコーポレーションの調査(2025年)で認知率74.7%、認知している子どものうち8割以上が利用経験を持つという結果が出ています。
一方、公文の家庭学習調査(2025年)では、子どもの生成AI利用を「増やしたい」と答えた保護者が29.2%、「利用したくない・減らしたい」が28.9%と、ほぼ真っ二つに分かれていることが明らかになりました。この拮抗こそ、今の日本の家庭がAIとの向き合い方をめぐって岐路に立っていることを示しています。
「禁止する」という選択の限界
「AIに頼ると考える力が育たない」「宿題をカンニングするツールになる」──こうした懸念を持つ保護者の気持ちは十分に理解できます。慶應義塾大学の栗原聡教授が「生成AIのデメリットを理解し、小学生には思考力を育む授業が必要」と指摘するように、無制限の使用が子どもの深い思考を奪うリスクは実在します。
しかし、「禁止する」という対処には構造的な限界があります。スマートフォンと同様、子どもは家庭の外でもAIにアクセスできます。親の目の届かない場所で使い始めた場合、「どう使うか」を一緒に考えた経験のない子どもは、無防備なまま誤情報や依存のリスクにさらされます。禁止は問題を排除するのではなく、見えないところに追いやるだけです。
そもそも、今の子どもたちが大人になる頃には、AIを使わないという選択肢はほぼ存在しないでしょう。仕事でも、学習でも、日常生活でも、AIは電気やスマートフォンと同じように社会インフラの一部となります。問われるのは「使うか使わないか」ではなく、「どう使うか」です。その問いに向き合う準備を、今の家庭教育のなかで始められるかどうかが重要なのです。
忘れてはならないのは、AIはすでに多くの領域で人間の知能を超えているという事実です。医療診断、法律の解釈、数学的推論、語学——専門家が何年もかけて習得する知識を、AIは瞬時に扱います。子どもたちはそのAIと共存しながら生きていかなければなりません。そのとき、親の「よくわからないから禁止」という姿勢が、子どもの可能性を閉ざす障壁になりかねないのです。
「活用させる親」が子どもに教えていること
博報堂教育財団の調査(2025年)では、生成AIを体験した小中学生の80.1%が「楽しい」、73.2%が「味方」と感じていることが示されています。AIに触れた子どもたちはAIを恐れず、自分の道具として捉えています。
「活用させる親」が子どもに伝えているのは、単なる操作方法ではありません。
② AIの答えをどう検証するか(批判的思考):AIは自信を持って誤ったことを述べます。「本当にそうか」と疑う習慣は、AI時代の基礎リテラシーです。
③ AIを使って自分の考えをどう深めるか(協働力):AIをたたき台にして自分の意見を練る──これが「AIに使われる人」と「AIを使う人」の分岐点です。
文部科学省も2024年12月に改訂した「生成AI利活用ガイドラインVer.2.0」の中で、「一律の禁止・義務付けは望ましくなく、柔軟な対応が必要」と明示しています。教育政策の方向は、禁止から共存へと明確に舵を切っています。
家庭環境が生む「見えない格差」
もう一つ、見過ごせない問題があります。AIの使い方を理解している保護者のいる家庭では、子どもは適切なサポートを受けながらAIを学べます。しかし保護者自身がAIに不慣れだったり、家庭にパソコンやインターネット環境がなければ、子どもはそもそもAIに触れる機会を持てません。
国際調査機関Ipsosの「Education Monitor 2025」では、「学校でのAI使用を禁止すべき」と考える保護者の割合が日本は21%と、調査対象30カ国の中で最も低い数値でした。多くの保護者がAI活用の必要性を感じている一方、実際に子どもへの教え方を知っている保護者はごく一部です。「必要だとわかっているが、どうすれば良いかわからない」という家庭が、取り残されていく構図があります。
今日から親にできること
「活用させる親」になるために、高い技術的知識は必要ありません。まず親自身がAIに一度触れ、「これは何に使えるか」を子どもと一緒に考えてみることが出発点です。「AIに聞いてみようか」「この答え、本当に合ってるかな」という会話を日常に持ち込むだけで、子どものAIリテラシーは着実に育ちます。
デジタルこどもBASEでは今後、子どもだけでなく保護者も一緒にAIやプログラミングを体験できるプログラムを展開することを検討しています。子どもにAIを使わせる前に、まず親自身が「触れてみる」経験を持つことが、家庭でのAI教育の出発点になると考えているからです。AIの時代に子どもを伸ばせるかどうかは、子ども自身の才能よりも、親の理解と姿勢にかかっている部分が大きいのかもしれません。
参考資料
- NTTドコモ モバイル社会研究所「子ども:生成AI利用率 中学生は前年比約3倍で4割を超える」(2026年3月)
- ベネッセコーポレーション「小学生の生成AI認知率・利用実態調査」(2025年)
- 公文教育研究会「家庭学習における生成AI利用に関する調査」(2025年)
- 博報堂教育財団「小中学生1,200人に生成AIの利用実態を調査」(2025年)
- Ipsos「Education Monitor 2025」
- 文部科学省「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドラインVer.2.0」(2024年12月)