漢文とは
日本では古来、これを 日本語の語順で読む工夫がなされてきた(訓読)。
書き下し文とは
ひらがな・カタカナ・助詞などを補う。
返り点のルール(詳細)
| 返り点 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| レ点 | すぐ下から上の1文字へ | 「読書」 → 書を読む |
| 一・二点 | 一を先、二を後に読む(2文字以上戻る) | 「読二書一」 → 書を読む |
| 上・下点 | 一二点よりさらに大きい範囲 | 複雑な構造 |
| 甲・乙点 | 上下点よりさらに大きい | 高校で扱う |
有名な故事成語 ── 矛盾
出典:『韓非子』
楚の国に矛と盾を売る人がいた
「この盾は どんな矛でも防げる」と言う
「この矛は どんな盾でも貫ける」と言う
客が問う:「では、その矛でその盾を突いたら?」
→ 答えられない
→ 「矛盾」=つじつまが合わないこと
五十歩百歩
出典:『孟子』
戦場で敗走した兵士たち
50歩逃げた者が100歩逃げた者を「臆病者」と笑う
→ どちらも逃げたという点では同じ
→ 「五十歩百歩」=大差ないこと。少しの違いを大きく差別化しても意味がない
蛇足(だそく)
出典:『戦国策』
楚の人々が、酒一杯を巡って蛇の絵を描く競争をした
「最初に描き終えた者が酒を飲める」
最初に描き終えた者が、余裕で 「足も描こう」と
そのうちに別の人が描き終え、「蛇に足はない」と言って酒を奪う
→ 「蛇足」=余計なつけたし、不要な追加
守株(しゅしゅ)
出典:『韓非子』
宋の農夫が、畑のそばで うさぎが切り株にぶつかって死ぬのを見る
「これは儲かる!」と農夫は 畑を耕すのをやめて、切り株のそばで待ち続けた
しかし二度とうさぎは現れず、農夫は人々の笑い者になった
→ 「守株」=古いやり方にとらわれて、進歩しないこと
朝三暮四(ちょうさんぼし)
出典:『荘子』
猿を飼う老人が、餌のドングリを「朝に3つ、夕方に4つ」与えると言う
猿は怒る
「では、朝に4つ、夕方に3つ」と変えると、猿は喜ぶ
→ 合計は同じなのに、表面的な順序の違いで喜怒哀楽が変わる
→ 「朝三暮四」=表面的なごまかし。または、目先の利益にとらわれること
その他の有名な故事成語
| 故事成語 | 意味 | 出典 |
|---|---|---|
| 四面楚歌 | 周りが敵ばかり | 『史記』項羽本紀 |
| 背水の陣 | 退路を断つ覚悟 | 『史記』韓信 |
| 呉越同舟 | 仲の悪い者同士が同じ場にいる | 『孫子』 |
| 臥薪嘗胆 | 苦労を耐えて目標を果たす | 『史記』 |
| 漁夫の利 | 第三者が利益を得る | 『戦国策』 |
| 塞翁が馬 | 幸不幸は予測できない | 『淮南子』 |
| 杞憂 | 取り越し苦労 | 『列子』 |
| 推敲 | 文章を練り直す | 『唐詩紀事』 |
書き下し文の例
原文:学而時習之、不亦説乎
読み:「学びて時にこれを習ふ、亦た説(よろこ)ばしからずや」
意味:学んで時々これを復習することは、なんと喜ばしいことか
→ 孔子の有名な言葉
故事成語の意義
現代日本語の 多くの慣用句が故事成語由来
→ 言葉の 背景を知ることで、表現が豊かに
→ 漢字文化圏(日本・中国・韓国・ベトナム)の共通教養
→ ビジネスや社会人会話でも頻繁に使われる
→ 中2のうちにしっかり覚えておきたい
- 言葉だけでなく、もとの 物語を覚える
- 物語を知ると、言葉の意味がしっかり理解できる
- 誰の何という本に出てくるかも把握
- レ点:1つ下から1つ上に返る(小さく返る)
- 一・二点:2文字以上の戻りに使う(大きく返る)
- レ点と一二点は組み合わさることもある
- 左下に返り点、右下に送り仮名(カタカナ)
- 漢字はそのまま、助詞・活用語尾はひらがなで補う
- 「不」→「ず」、「也」→「なり」など、訓読の決まりがある
- 「也」「乎」「哉」は特別な読み方
教科書で確認した故事成語の読み方
- 故事成語は、古い出来事やたとえ話を背景にもつ言葉。
- 意味だけを覚えるのではなく、どんな場面から生まれたかを説明できるようにする。
- 漢文では、訓読の順番と書き下し文の形を合わせて確認する。
- 「矛盾」は、二つの説明や行動が同時には成り立たないときに使う。
- 故事の内容と現代での使い方を一文ずつ作ると定着しやすい。
この章でつまずきやすいところ
漢文を読む途中で多くの中学生がつまずくのは、返り点の順序や、故事成語のもとの話と現代語の意味の対応です。本文を読みながら迷いやすい具体場面を取り上げ、見分け方と短い例で整理します。
レ点と一二点を上から順に読んでしまう
- つまずく場面:「読二書一」のような漢文を見たとき、つい上の字「読」から順に目で追ってしまい、書き下し文の語順がうまく作れなくなる。レ点と一二点が混ざるとさらに迷う。
- 克服のコツ:位置関係で整理する。返り点は字の左下に付き、レ点は付いた字のすぐ下の字を先に読み、その後でレ点が付いた字に戻る。一二点は「一」が付いた字を先に、「二」が付いた字をあとに読む。番号を振ってから書き下すと迷いが消える。
- ミニ例:「読二書一」は「読」の左下に「二」、「書」の左下に「一」が付いた形(一二点)を平文で示したもの。「書」に「一」、「読」に「二」が付くので、書を先、読を後に読み、書き下し文は「書を読む」となる。
「五十歩百歩」を「五十歩のほうがまし」と思い込んでしまう
- つまずく場面:本文の『孟子』の話を読んでいると、戦場から50歩逃げた兵士が、100歩逃げた兵士を「臆病者」と笑う場面が出てくる。「50歩のほうが少ないんだから差はあるのでは?」と考えて、現代語の意味とつながらず迷ってしまう。
- 克服のコツ:因果関係で整理する。原話の結論は「どちらも逃げた」という同じ点に立つこと。少しの数の差ではなく、本質的に同じ行為であることを笑いの対象にしている。だから現代語では「大差ないこと」という意味になる。
- ミニ例:「宿題を1ページ忘れた人と2ページ忘れた人」を比べて争うのは五十歩百歩で、どちらも忘れたという点で同じ、というのが原話と現代語のつながり方。
「蛇足」を「上手なつけたし」と取り違える
- つまずく場面:『戦国策』の話を読みながら、最初に絵を描き終えた人が「足も描こう」と余裕を見せた場面で、「丁寧に描いたのに損をしたのは運が悪いだけでは?」と感じ、現代語の「余計なつけたし」と意味がつながらなくなる。
- 克服のコツ:時系列で整理する。①最初に描き終えた→②勝てるはずだった→③足を描いた→④別の人が描き終えた→⑤「蛇に足はない」と言われ酒を奪われた。結果として、不要な追加で失敗したという流れが現代語の意味の根拠になる。
- ミニ例:答案を書き終えたあとに、聞かれていないことまで書き足して減点される、という場面は蛇足。原話と同じく「不要な追加で結果を損なう」型。
「不」「也」をそのまま漢字で書き下してしまう
- つまずく場面:「不亦説乎」を書き下そうとして、「不」「亦」「説」「乎」の漢字をそのまま並べてしまい、ひらがなにすべきところがどこか分からなくなる。送り仮名の補い方にも迷う。
- 克服のコツ:見分け方で整理する。漢文の助詞・助動詞にあたる字(不・也・乎・哉 など)は、書き下し文ではひらがなに直すのが原則。漢字はそのまま残し、活用語尾や助詞をひらがなで補う、と覚えると形が安定する。
- ミニ例:「不亦説乎」は「不…乎」全体で「〜ずや(〜ではないか)」と読む反語の慣用構文で、「不」を単独で「ずや」と読むわけではなく、文末の「乎」と呼応して「〜ずや」となる。書き下しでは「亦た説ばしからずや」となる。
練習問題
次の故事成語の意味を答えよ。
- 矛盾
- 蛇足
- 五十歩百歩
- 四面楚歌
答えを見る
(1) つじつまが合わないこと
(2) 余計なつけたし
(3) 大差ないこと
(4) 周りがすべて敵で孤立した状態
「矛盾」「蛇足」の出典を答えよ。
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矛盾:『韓非子』
蛇足:『戦国策』
「守株」のもとの話を簡潔に説明せよ。
答えを見る
農夫が偶然うさぎが切り株にぶつかって死ぬのを見て、それから畑を耕すのをやめて切り株のそばで待ち続けたが、二度とうさぎは現れず笑われた、という話。
論語「学而時習之」の書き下し文を書け。
答えを見る
学びて時にこれを習ふ
まとめ
- 漢文:中国古典。返り点と送り仮名で 書き下す。
- 返り点:レ点(1つ上)、一・二点(2文字以上)。
- 故事成語:矛盾・五十歩百歩・蛇足・守株・朝三暮四・四面楚歌 など。
- もとの物語を理解すると、深く使える。
- 現代日本語にも多くの故事成語が生きている。
もっと知る ── 発展・実生活(出典つき)
※ 教科書の内容に、信頼できる出典をもとにした発展・実生活・時事の話題を補足しています(教科書そのものではありません)。
訓読は日本で生まれた漢文の読み方発展
返り点や送り仮名を使って漢文を日本語の語順で読む「訓読」は、外国語である漢文を理解するために日本で工夫された読書法です。素朴な形は飛鳥時代にはすでにあり、奈良時代末の延暦2年(783年)には返り点などを記した文献が確認されています。
学校で習う訓読のルールは明治時代に統一された発展
今みなさんが習う返り点や送り仮名のつけ方は、昔は流派ごとにばらばらでした。学校教育で統一的なルールになったのは、明治45年(1912年)に出された『漢文教授ニ関スル調査報告』より後のことです。教科書のルールにも歴史があるのです。
故事成語が日本に伝わった道すじ発展
故事成語は、中国の歴史上の出来事や古典から生まれ、教えや知恵を短い言葉で表したものです。日本には『論語』や『史記』などの古典を通じて伝わり、平安時代の貴族から江戸時代の町人へと広まって、今も学校や日常で使われています。「矛盾」のように完全に日本語に溶け込んだ語もあります。
「四面楚歌」が生まれた垓下の戦い発展
「四面楚歌」は、司馬遷の『史記』項羽本紀に記された紀元前202年の垓下の戦いに由来します。漢軍に囲まれた項羽が、四方から故郷である楚の歌が聞こえてきて、味方の楚の人々まで漢に降ったと思い絶望した場面から、周りがすべて敵で孤立した状態を表す言葉になりました。
故事成語の宝庫『史記』はどんな本か発展
多くの故事成語の出典となる『史記』は、前漢の歴史家・司馬遷が伝説上の黄帝から同時代の武帝までを描いた中国の歴史書です。本紀・表・書・世家・列伝の全130巻からなり、個人の伝記を中心に歴史を展開する「紀伝体」という形式で、その後の中国の正史の模範となりました。
『論語』の言葉は2500年前の先生の教え実生活
「学びて時にこれを習ふ」で始まる『論語』は、紀元前6世紀ごろ中国・春秋時代の思想家である孔子と弟子たちの対話をまとめた書物です。学んで復習することの喜びなど、人としての生き方を説いた言葉が、国や時代をこえて今も多くの人に読み継がれています。
