仕事も学びも、最後に差がつくのは「やり抜く力」

子どもがなにかにつまずいたとき、その次の数秒の反応は、子どもによって驚くほど違うものです。「もう一回」と自分から向き直る子もいれば、「もういい」とそこで手を止めてしまう子もいます。

たとえば、自分で組んだプログラムが思うように動かないとき。エラーの表示を見て、どこが違うのかをもう一度たしかめようとする子もいれば、うまくいかないとわかった瞬間に画面から離れてしまう子もいます。そしてこの違いは、その日の一場面だけで終わるものではありません。

この「途中でやめずに続ける力」に近い概念として、心理学ではグリット(やり抜く力)や自己統制力が研究されています。ペンシルベニア大学のアンジェラ・ダックワースらが2005年に発表した研究では、自己統制力(自制心)が中学生の学業成績を予測する力として、IQのおよそ2倍の説明力を持っていました。頭の良さそのものより、最後までやり抜けるかどうかが、成績や出席率、高校進学の結果を大きく左右していたのです。

これは学校の中だけの話でも、子どものうちだけの話でもありません。大人の仕事でも、同じくらいの能力や経験を持つ人どうしで、はっきりと差が開きます。任された仕事を最後までやり切って形にする人がいる一方で、あと一歩の詰めや、うまくいかない場面で手が止まってしまう人がいます。「あの人は仕事ができる」と言われる人と、そうでない人を分けているのは、頭の良さや器用さそのものよりも、投げ出さずにやり切れるかどうか、という違いであることが少なくありません。

ダックワースらが軍隊・職場・学校・結婚という異なる場面を調べた2014年の研究でも、やり抜く力の高い人ほど、どの場面でも途中でやめずに続ける傾向がありました。その差は、IQや性格的な特性を考慮してもなお残っていたのです。生まれ持った能力よりも、最後までやり抜けるかどうかが、その後を大きく左右していました。

この力は、家庭や学校での経験によって差が生まれやすい力でもあります。文部科学省の資料でも、グリットと家庭・学校の社会経済的な環境との関連が指摘されています。つまり、意識して育てなければ、環境の差がそのまま固定されやすい力でもあるということです。

そして今、同じ構図がAIの使い方にも表れています。SHIFT AIが2026年に実施した調査では、生成AIに関心がある人は40.1%だったのに対し、実際に学習を始めている人はわずか4.1%にとどまりました。関心を持つことと、実際に動き出すことの間には、まだ大きな距離があります。

学習の継続そのものについても、同様の傾向が見えます。ビズメイツが2025年に実施した調査では、社会人の84.4%が英語学習で挫折を経験し、その最多の理由は「継続するための自己管理ができなかった」(56.5%)でした。始めることよりも、続けることのほうが、ずっとむずかしいのです。

AI時代に「続ける力」が差になりやすい理由

AIは、文章を書く、絵を描く、簡単なプログラムを組むといった「始めるための壁」を大きく下げました。しかし、それを毎日の習慣に組み込み、うまくいかない時にも投げ出さずに調整し続けられるかどうかは、AIが代わりにやってくれません。道具が誰にでも同じように配られていても、使い続けられる人とそこで手を止めてしまう人の差は、これからさらに目立つようになっていきます。

データで見る「続ける力」の差

・自己統制力が学業成績を予測する力はIQの約2倍(Duckworth & Seligman/2005年)
・軍・職場・学校・結婚のいずれでも、やり抜く力の高い人ほど途中でやめず続ける傾向、IQや性格を考慮しても差が残る(Eskreis-Winkler他/2014年)
・生成AIに関心がある人は40.1%、実際に学習を始めている人は4.1%にとどまる(SHIFT AI/2026年)
・社会人の84.4%が学習で挫折を経験、最多理由は「継続の自己管理ができない」56.5%(ビズメイツ/2025年)
・挫折を防ぐ工夫の1位は「達成しやすい小さな目標を設定すること」33.0%(ビズメイツ/2025年)

子どものころから育てられること

やり抜く力は、結果ではなく経験の積み重ねで育っていきます。先ほどのビズメイツの調査で、挫折を防ぐ工夫として最も多く挙げられたのは「達成しやすい小さな目標を設定すること」(33.0%)でした。子どもも同じで、最初から大きな完成を目指すのではなく、少し頑張れば届く目標を積み重ねる経験が土台になります。保護者にできるのは、結果をすぐに評価することよりも、途中で投げ出さずに取り組んだこと自体に「がんばったね」と言葉をかけることです。これは小学生だけの話ではなく、中学生・高校生にとっても、今から積み重ねていける力です。

デジタルこどもBASEでは、プログラミングやパソコンの学びを通じて、子どもたちが試して、失敗して、もう一度やり直す経験を積めるようにしています。プログラムが動かない原因を探す、作品を少し直す、前回できなかった操作をもう一度試す。そうした小さなやり直しを、学びの中心に置いています。うまくいかずに口をとがらせていた子が、画面が思いどおりに動いた瞬間に見せる表情は、何度立ち会っても忘れられません。

「できた」の前には、いつも「もう一回」があります。その小さな一回を重ねた経験は、いつか大きな壁にぶつかった日に、その子自身を静かに支えてくれます。私たちは、子どもが手を止めかけたその最初の一回に、そっと立ち会える場所でありたいと思っています。

参考資料

著者:漆谷 智行(デジタルこどもBASE理事長)