子どもがAIと何かやりとりしながら、画面にプログラムらしい文字列を流している。何をしているのかは、隣から眺めただけでは分からない──そんな場面が、これからの家庭では増えていきます。
プログラミングに興味を持ってくれたなら頼もしいことです。ただ、その入口はいま、思いがけない方向にも開いています。
4万6千人分のアカウントを退会させた中学3年生
2026年7月、警視庁は埼玉県の高校1年の男子生徒(15)を偽計業務妨害の疑いで再逮捕しました。動画配信サービス「バンダイチャンネル」のサーバーに虚偽の情報を送り、約4万7千人分のアカウントを勝手に退会処理して、サービスを一時停止に追い込んだとされる事件です。犯行当時、彼は14歳の中学3年生でした。使われた不正プログラムは、対話型AI「ChatGPT」で完成させたと供述しています。
同じ構図の事件は初めてではありません。2025年2月には、14〜16歳の中高生3人が楽天モバイルへの不正アクセスなどの疑いで逮捕されています。ネット上で出回っていた他人のID・パスワードを自作プログラムで大量に試して通信回線を不正に契約し、転売して約750万円相当の暗号資産を得ていました。プログラムの作成にはやはりChatGPTが使われ、動機のひとつは「SNS上で注目を集めたかった」。その後、手口を真似た16歳の2人も検挙されています。
不正アクセスで検挙された3人に1人が10代
これらは突出した例外ではありません。国家公安委員会などが2026年3月に公表した資料によると、2025年に不正アクセス禁止法違反で検挙された248人のうち、14〜19歳は81人と全体の32.7%を占め、この5年間で最多になりました。刑事責任を問えない14歳未満も7人が補導され、最年少はわずか10歳です。
・不正アクセス禁止法違反の検挙人員:248人
・うち14〜19歳:81人(32.7%)── 過去5年で最多(2021年60人 → 2025年81人)
・14歳未満で補導された触法少年:7人(最年少10歳)
少年たちに欠けていたのは「才能」ではない
バンダイチャンネルの事件について、サイバーセキュリティが専門の森井昌克・神戸大学名誉教授は、少年を「天才」と持ち上げる風潮に釘を刺しています。背景にあるのは高度な才能ではなく、自己顕示欲や善悪判断の未熟さである可能性が高い。手口もコードの断片もすでにネット上にあり、生成AIに頼めば組み立ててもらえる。「意欲さえあれば小中学生でも実行できる」時代に入ったという分析です。
ここで見落とせないのは、紹介した少年たちが例外なく特定され、逮捕されているという事実です。インターネットの通信には、IPアドレスや接続記録という痕跡が必ず残ります。アクセスログ、契約情報、暗号資産の取引記録を、捜査機関はたどることができます。技術を深く理解している人ほど、「ばれずにやり通すことはできない」と知っています。AIはプログラムを書く力を貸してくれますが、この理解までは貸してくれません。少年たちは「動かし方」だけを手に入れ、その裏側で何が記録されているかを知らないまま、一線を越えました。
禁止ではなく、仕組みと想像力を教える
AIやパソコンを取り上げても、この構図は変わりません。コードを書いてくれるAIは、これからも子どもの手の届くところにあり続けます。必要なのは、ネットワークがどう動き、記録がどこに残り、その行為が法律で何と呼ばれるのかを、悪用を覚えてしまう前に教えることです。仕組みへの理解は、旺盛な好奇心を作る側・守る側へ導くと同時に、「必ず捕まる」と分からせる最も確実な抑止力になります。
あわせて教えたいのは、行為の先を想像する力です。プログラムをひとつ動かした結果、4万7千人がある日突然サービスを使えなくなり、その復旧に追われる人たちがいる。そして逮捕されれば、自分の家族の生活も一変します。画面の向こうで困っている人と、隣にいる家族。その顔をどれだけ具体的に思い浮かべられるかが、最後の一線を守る倫理観になります。「注目を集めたかった」という少年の動機は、この想像力の欠落と裏表です。
デジタルこどもBASEは大田区で、子どもたちに無料でパソコン・プログラミング・AIの使い方を教えています。技術から遠ざけるのではなく、正しく深く理解させ、その技術の先にいる人を想像できる子に育てること。それが、コードを書けるようになった子どもを「検挙される側」にしないために、大人ができることだと考えています。
