親という鳥かごに、子どもを閉じ込めていませんか

しっかり勉強して、いい大学に入り、いい会社に就職する。親が子どもにこの道を勧めるのは、自分が知っている中で、いちばん確かに見える道だからです。

けれども、その道がわが子に向いているかどうかを、立ち止まって確かめる機会はあまりないかもしれません。親が知っている道だけを安全な場所とすれば、その内側はいつのまにか鳥かごになっていきます。

「好きにしなさい」の裏で、親の地図が行き先を決めている

リクルートと全国高等学校PTA連合会の調査(2023年)で、高校2年生の保護者が進路の話でよく使う言葉の1位は「自分の好きなことをしなさい、やりたいことをやりなさい」(66%)でした。ところが、そう言われた高校生からは「やりたいことがはっきりしていないから、どうしたらいいかわからない」という声が上がっています。やりたいことがまだない子どもにとって、「好きにしなさい」は、何も渡されていないのと同じです。

そして子どもが答えを出せずにいるあいだに、親の本音が行き先を決めていきます。クラレが2026年4月入学の新小学1年生の親4,000人に聞いた「就かせたい職業」は、男の子の親も女の子の親も「公務員」が1位でした。口では自由を与えながら、心の中では、自分が知っている安定した道をとうに選んでいるのです。

厄介なのは、その道を描いた地図を、親自身が古いと認めていることです。先のリクルートの調査では、保護者の73%が進路のアドバイスを「難しい」と答えました。理由の1位は「入試制度をはじめ最新の進路情報を知らないから」(51%)、2位は「社会がどのようになっていくのか予測がつかないから」(46%)です。自信の持てない地図のまま、子どもの行き先だけは決めている。これが、親がつくる鳥かごの正体です。

その地図は、AIで書き換わった

これまでは、その地図でも迷わずに済みました。よく勉強し、よい大学を出て、よい会社に入れば、仕事と収入はついてきました。親の世代が「勉強しなさい」と言えたのは、その道が実際に通用したからです。

生成AIは、その前提を崩し始めています。スタンフォード大学デジタル経済研究所のブリニョルフソン教授らが米国の給与データを分析した報告(2026年8月)では、AIの影響を強く受ける職種で働く22〜25歳の雇用が、影響の小さい職種の同年代より19%少なくなっていました。同じ職種でも、経験を積んだ働き手にはこうした差は見られません。減っていたのは、教科書やマニュアルに書き出せる知識で成り立つ仕事です。研究チームは因果関係までは断定していませんが、方向ははっきりしています。

書き出せる知識は、AIがいちばん得意とするものです。勉強ができることの価値がなくなったわけではありません。けれども、勉強だけができる人の価値は、大きく下がりました。

かごの扉は、「代わりに決める」ことで閉まる

問題は、親の知識に限界があることそのものではありません。その限界を、子どもの限界にしてしまうことです。自分が通った道なら安心。自分が知らない道は危ない。そう考えて子どもの代わりに選び、先回りして道をならすと、子どもは自分に何が向いているかを確かめる機会を失います。

その影響は、数字にも出ています。海外の研究チームが53の研究、のべ4万6,365人の若者を統合したメタ分析(Journal of Adult Development・2024年)では、年齢に見合わないほど子どもの問題に先回りして介入する「ヘリコプター・ペアレンティング」を受けた人ほど、不安や抑うつが強く、「自分ならできる」という自己効力感と、自分で自分を律する力が低い傾向がありました。研究チームは、子どもの自律を支える関わり方を勧めています。

適性は、やってみた子にしか見えない

向き不向きは、机の上で考えても見えてきません。手を動かして何かを組み立てるのが好きな子、人に説明するのが得意な子、ひとつのことを黙々と続けられる子。こうした適性は、いろいろなことを実際にやってみたとき、初めて表に出てきます。

「いい大学、いい会社」という道は、18歳の合格と22歳の就職をゴールにしています。けれども、子どもが社会で本当に力を発揮するのは、その20年、30年先の40代・50代です。そのとき頼りになるのは、入った大学や会社の名前より、自分に向いた分野で積み上げてきた経験です。

そして、どれほど大切に守っても、子どもはいつか必ずかごを出て、親の手の届かない空へ飛び立つ日が来ます。そのときに飛べるかどうかは、それまでに自分の羽を使ってきたかどうかで決まります。

だから親の役割は、正しい道を先に決めることではなく、子どもが試せる機会を増やし、何に夢中になっているかを見ていることです。親がなるべきなのは、子どもを守る鳥かごではなく、飛び立っては戻ってこられる止まり木です。

子どもが何かに夢中になっていたら、口を出す前に、それを見せてもらってください。親の地図は、子どもが見せてくれたものから描き直されていきます。

デジタルこどもBASEが目指しているのは、今勉強ができる子を育てることではなく、40代・50代で活躍できる人を育てることです。大田区の拠点では、Scratchなどのプログラミング、AI、マインクラフト、パソコンの組み立てなど、保護者の多くが触ったことのない分野を、子どもが自分で選んで試しています。親の地図の外で、子どもが自分の向き不向きを見つけられる場所でありたいと考えています。

参考資料

著者:漆谷 智行(デジタルこどもBASE理事長)