先日、子ども向けのイラストやワークシートを1万点あまり、無料で公開しました。あわせて、情報モラルの4コマまんがも340本、すべてに読み上げ動画をつけて公開しています。
実を言うと、この素材の多くは、一般に公開するつもりで作ったものではありません。
4コマまんがを同じ品質で作り続けるために、内部で必要だったから用意したものです。同じキャラクター、同じ表情、同じ背景、同じ小物。毎回ゼロからAIに頼んでいては、340本も揃いません。素材集そのものが、まんがを安定して生み出すための仕組みでした。
公開に踏み切ったのは、教育関係の方から「使わせてほしい」というご連絡を何件かいただいたからです。内部の道具として抱えておくより、必要な方に使っていただいたほうがいい。そう判断しました。
「AIがあれば、時間さえかければ誰でも作れそうですね」と思われるかもしれません。一方で、日ごろAIを使い込んでいる方からは、「これは相当大変だったでしょう」という反応が返ってきます。
同じものを見ているのに、受け取り方がここまで分かれます。その差がどこから来るのかを、今日は書いておきたいと思います。
偶然で出るのは、1枚までです
AIで絵を1枚つくるのは、いまや誰にでもできます。運がよければ一度で、驚くほどいいものが出ます。だから「自分にもできそう」と感じるのは、自然なことです。それは、偶然でAIを使っている状態です。
けれど、4コマまんがを340本そろえるとなると、偶然では一歩も進みません。
4コマは1枚絵とは違い、同じ人物が4コマ続けて同じ顔でいること、話がつながっていること、読み終わったときに伝えたいことが残っていることを、同時に満たさなければなりません。毎回「いい絵が出るまで引き直す」やり方では、1本目と300本目で別のまんがになってしまいます。
だから、先に素材をそろえました。キャラクターを固定し、表情を並べ、背景と小物を用意しておく。そうして初めて、同じ水準のまんがを作り続けられるようになります。1万点という数は、作品の量ではありません。安定して作るために必要だった、土台の量です。
そして、ここがいちばん大事なところです。一度にまとめて作ることよりも、同じ水準で作り続けることのほうが、はるかに難しい。
最初の10本は、気力で作れます。問題は100本目です。300本目です。そこで品質が落ちないこと、キャラクターがぶれないこと、手を抜いた回が混ざらないこと。これは根気の話ではありません。続けるには、気力ではなく仕組みが要ります。
必要なのは、手数ではなく設計です
では、何が要るのか。
何を、どの順で、どこまで機械にやらせるか。どこで人が判断し、何を自動で確かめるか。同じものを二度作らないために、何を型として持っておくか。これらを先に決めて、プログラムに落とすという作業です。
絵を出すこと自体は、作業全体のごく一部でしかありません。時間の大半は、その前後をどう組み立てるかに使われます。そして、何を目指すのか、出てきたものをよしとするのか。この判断だけは、人が引き受けるしかありません。何を作りたいのかを知っているのは、こちらだけだからです。
AIが来て「誰でも作れるようになった」のは事実です。同時に、誰でも作れるからこそ、差がつくのは作り方のほうになりました。
問われるのは、何度でも出せるかどうかです
この変化は、教材づくりに限った話ではありません。
誰でも、それなりのものを出せるようになりました。文章も、絵も、資料も、一度きりのものであれば、以前ほど差がつきません。
誤解のないように書いておくと、作ったものに意味がない、という話ではありません。一度きりの成果物からは、その人の力が見えにくくなった、という話です。
代わりに問われるのは、それを何度でも出せるかどうかです。一度いい資料を出せる人は、いくらでもいます。何度でも出せる人は、それほど多くありません。両者を分けているのは才能ではなく、仕組みを持っているかどうかです。
この差は、平時には見えません。1枚でいいとき、期限に余裕があるとき、誰も直しを求めないとき。そういう場面では、偶然と必然は同じ顔をしています。差が出るのは、数が要るとき、締め切りがあるとき、そして「ここを直して」と言われたときです。偶然に頼っている人は、そこで止まります。もう一度当たりを引くまで、待つしかないからです。
必然の思考は、繰り返すことでしか身につきません
ここが、いちばん厄介なところです。
一度やっただけでは、何がよかったのか見えてきません。何度もやって、うまくいった日といかなかった日を比べて、はじめて「こうすれば出せる」が分かってきます。経験が要る、というのはそういう意味です。
必要なのは、失敗しても構わない場所と、繰り返せるだけの時間です。
偶然でAIを使うか、必然でAIを使うか。この差は、一度で身につくものではありません。何度も試せた子だけが、少しずつ自分のものにしていきます。
デジタルこどもBASEは、毎週水曜日に無料の学び場「放課後ラボ」を開き、一人1台のパソコンを用意しています。学校に行きづらい子と保護者のための「ふらっとラボ」もあります。家庭にパソコンがない子には、配付と貸与を行っています。
私たちが渡したいのは、うまく作る方法ではありません。うまくいかなかったときに、「今度はここを変えてみよう」と言える時間です。
「できなかった」日の帰り道にも、「また行きたい」と思える場所でありたいと思っています。
