AIを子どもたちに教えるとき、私がいつも話していることがあります。これから必要になる力のひとつは、「よい人間になる」ことだ、という話です。
パソコンやAIを学ぶ場で、なぜ人柄の話をするのか。そう思われるかもしれません。けれど私にとっては、30年近くIT業界で働いてきた経験から出てきた、いちばん実感のある話です。
技術さえあれば、居場所があった
この業界に限った話なのかどうかは分かりません。ただ私は、ある特定の部分だけが飛び抜けて優れていて、人間的には問題のある人に、何人も出会ってきました。
そういう人は、どれほど扱いにくくても、技術が優れてさえいれば仕事の場に存在できました。その人にしか書けないプログラム、その人にしか直せないシステムがあったからです。周りが折り合いをつけて、仕事は回っていました。
嫌な人でも、腕があれば許される。これが、これまでの現場の現実でした。
尖った部分は、AIが埋め始めています
AIが出てきて、この前提が変わりました。ある一部分だけに秀でた技術は、AIが肩代わりできるようになってきています。尖った技術だけで選ばれていた人は、選ばれる理由を失っていきます。
この先、知能の面でAIに勝てる人は、誰もいなくなるでしょう。速さでも、正確さでも、知識の量でも、勝負にならない時代が来ます。
そのとき、人が人を選ぶ基準は何になるのか。それは、「人としてこの人と一緒にやりたいかどうか」です。
残るのは、誠実さです
その中身は、人間としての誠実さです。約束を守る。分からないことを分からないと言う。失敗を隠さない。相手の話を聞く。地味なことばかりです。
ここで言う「よい人間」は、明るい性格のことではありません。社交的で、誰とでもすぐ話せる人のことでもありません。静かな人でも、話すのが得意でなくても、人見知りでも、約束を守り、ごまかさず、相手を大切にする人は、誠実な人です。性格の明るさや暗さは、まったく関係がありません。
AIに頼めば、文章も絵もプログラムも出てきます。けれど「この人に任せたい」という信頼は、頼んで出てくるものではありません。日々の言動の積み重ねで、少しずつ作られていくものです。
誠実でない人が、言葉や態度をうわべだけ整えても、人はその違和感を直観的に見抜きます。身につけるべきなのは、うわべではありません。長い時間をかけて、少しずつ自分のものにしていくしかないのです。
子どもたちに話していること
だから私は、子どもたちにAIの使い方を教えるのと同じ熱量で、よい人間になる話をします。技術は教えられますし、AIも手伝ってくれます。誠実さは、性格を変えることではなく、一つひとつの行動の選び方です。だから、どんな子にも、今日から身につけていけるものです。
誠実な人が生き残る社会は、本来あるべき姿だと私は思います。
子ども向けのコラム集「こども未来ノート」も、同じ気持ちで書いています。AIやパソコンの使い方だけでなく、友だちのこと、お金のこと、自分を大切にすることまで。技術の話の根っこには、いつも「どんな人でありたいか」があるからです。
デジタルこどもBASEは、毎週水曜日に無料の学び場「放課後ラボ」を開いています。パソコンやAIに触れるだけでなく、人と関わりながら過ごす時間そのものを、子どもたちに渡したいのです。
よい人間とはどんな人間なのか。これからも子どもたちと一緒に、考えてゆきたいと思います。
