「AIを使いこなせ」と言うなら、子どもに最新のAIを

── 本物を使うことが、一番の近道

数年後、学校で配られた子ども向けのAIに、ある子が質問します。返ってくるのは、当たりさわりのない短い答えと、「先生に聞いてみよう」の一言。何度か試したあと、その子はつぶやくかもしれません。「AIって、あんまり頭よくないね」。

けれど、頭がよくないのはAIではありません。その子が触れた、子ども用に作られた劣化版のAIです。そして今、本物のAIの多くは、利用規約で小学生を外しています。

国は「AIを使いこなす力」を小学校から育てる

2026年10月5日、中央教育審議会の教育課程部会は「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」を公表しました。小学校の総合的な探究の時間に「情報の領域」を加え、中学校に「情報・技術科」をつくる方向です。全面実施は小学校が2030年度、中学校が2031年度と想定され、2028年度から段階的な先行実施も検討されています。

まとめは、「AIを使いこなす力」を情報活用能力の中核に置きました。それは「単なる操作技能」ではなく、AIを適切に活用して「問題を発見・解決したり自分の考えを形成したりしていく力」だと定義しています。子どもが「検索エンジン等を通じて」すでに日常的にAIに触れている、という現状認識も書かれています。

ところが、代表的なAIは小学生を締め出している

AnthropicのClaudeは、利用規約で18歳以上を条件にしています。OpenAIのChatGPTやCodexは13歳以上で、18歳未満は保護者の許可が必要です。GoogleのGeminiは、保護者がファミリーリンクで許可すれば13歳未満でも使えますが、こうした道はまだ一部です。小学生が自分の手で使える最新のAIは、ほとんどありません。

文部科学省の生成AIガイドラインも、学校では年齢制限を含む規約を守らせるよう求めています。小学生が直接使うことには「より慎重な見極めが必要」とし、例として、教師とAIの対話を子どもに見せる方法を挙げています。2026年10月に示された改定の方向性では、「教育分野に特化したAI」の必要性を盛り込む案も出ています。

国は使いこなす力を育てると言い、道具の側は子どもを外している。教える対象なのに、本物には触らせない。ここに大きなずれがあります。

パソコンで、同じことが起きた

似たことは、すでに一度起きています。GIGAスクール構想で配られた学習用端末は、更新が進む第2期でGoogleのChromeOSが6割を占め、Windowsは1割にとどまります(MM総研、2025年7月)。一方、国内のパソコンからのウェブ利用では、Windowsが約8割、ChromeOSは1%に届きません(StatCounter、2026年9月)。

学校で慣れる道具と、社会に出て向き合う道具が違うのです。価格や管理のしやすさを考えれば、学校の選択にも理由はあります。それでも、子どもが大人になって使う道具かどうかより、大人が管理しやすいかどうかが優先されてきた面は否めません。AIで、同じことを繰り返してはいけません。

線を引く理由は、たしかにある

年齢の線には理由があります。13歳という線の背景には、13歳未満の子どもの個人情報の扱いを厳しく定めた米国の法律(COPPA)があります。対話AIアプリの米Character.AI社は2025年10月、報道や規制当局からの問いかけを受け、18歳未満がAIと自由に会話する機能を11月25日までに終えると発表しました。子どもを守る必要があるのは、その通りです。

ただ、年齢で一律に閉ざすと、危険と一緒に学ぶ機会も消えます。守ることと、使わせないことは、同じではありません。

本物を使うことが、一番の近道

教師がAIと話す画面を眺めることと、自分で問いを立て、返ってきた答えを確かめることは、まったく違う経験です。AIがもっともらしく間違えることも、聞き方を変えると答えが変わることも、自分で使って初めて身にしみます。機能を絞ったAIしか知らなければ、子どもは「AIはこの程度」と覚えたまま大人になります。子どもが大人になって使うのは、そのときの最新のAIです。

必要なのは、年齢で閉ざす仕組みではなく、大人がそばにいることを条件に、最新のAIを開く仕組みです。AIの会社には、保護者や教師が見守れる子ども向けの使い方を、最新のモデルで用意してほしい。学校や地域には、大人が隣にいて本物に触れられる場が要ります。

家庭でも、今日からできることがあります。親が自分のアカウントでAIを操作し、子どもと画面を一緒に見る。子どもの問いを親が打ち込み、答えを読んだら「どこが分かった?」「何で確かめられる?」と聞く。答えをそのまま使わず、自分の言葉で説明し直す。これは審議まとめが、AIの出力を「言語による外化なしに」そのまま使う例を戒めていることとも重なります。

デジタルこどもBASEは、子どもが本物の道具に触れられる場所として、大田区で無料の「放課後ラボ」を開いています(現在は見学と待機を受け付けています)。家庭にパソコンがない子には、パソコンを無料で届ける取り組みも続けています。

参考資料

著者:漆谷 智行(デジタルこどもBASE理事長)