パソコン教育が子どもの自己肯定感を高める理由──できた体験が未来を変える

子どもがパソコンの前で、何度も試しながら画面を動かせた瞬間、表情がふっと変わることがあります。「できた」という一言は小さくても、その中には、自分で考えて、自分の手で結果を変えられた実感が詰まっています。

自己肯定感は、特別な言葉だけで育つものではありません。うまくいかない時間も含めて、自分で試し、少しずつ前に進む体験の中で育っていきます。パソコンやプログラミングは、その「できた」を何度も積み重ねられる道具です。

一方で、日本の子どもたちの自己肯定感には気になるデータもあります。こども家庭庁が2024年に公表した「我が国と諸外国のこどもと若者の意識に関する調査(令和5年度)」によると、「今の自分が好きだ」と答えた日本の子ども・若者は17.5%でした。アメリカは57.9%、ドイツは61.6%で、日本は調査した5カ国中で最も低い値です。

この数字の背景には、子どもたちが「自分はできる」と感じられる体験を、十分に積めていない現実があるのではないでしょうか。大切なのは、子どもに自信を持つよう言い聞かせることではなく、自信が自然に生まれる体験を増やしていくことです。

「できた」という体験が人を変える

心理学者アルバート・バンデューラが提唱した「自己効力感(self-efficacy)」の概念は、この問題を解く鍵のひとつです。自己効力感とは「自分はやればできる」という確信のことであり、その最も強力な源泉は、実際に何かを達成した成功体験です。褒め言葉や励ましではなく、自分の手で何かを動かし、結果を受け取った実体験こそが、子どもの内側に「自分にはできる」という感覚を刻みます。

文部科学省のデータも同じ方向性を示しています。自然体験や生活体験などの体験が豊富な子どもは、そうでない子どもと比べて自己肯定感が高い傾向があります。知識の量ではなく、体験の密度が自己肯定感を左右するのです。

パソコンが「できた体験」を生む理由

パソコンやプログラミングが自己肯定感の形成に特に有効な理由は、その即時フィードバックにあります。コードを書いてキーを押せば、結果がすぐに画面に返ってきます。エラーが出れば修正し、また試す。この試行錯誤のサイクルそのものが、「自分の行動が結果を変える」という実感を繰り返し積み上げます。

テストの点数は「正解か不正解か」という二項の評価ですが、パソコンを使った制作活動は違います。思い通りに動かなくても、少しずつ近づいていく過程がある。「まだ完成していないけど、さっきよりうまくなった」という感覚こそが、自己肯定感の土台になります。

加えて、作ったものが「動く」「見える」「人に見せられる」という具体性も重要です。ゲームを作った、絵が動いた、発表したら友達が驚いた——こうした体験は、抽象的な成績評価では得られない種類の達成感です。この達成感の積み重ねが「もう一度やってみよう」という内発的な動機を生み、さらなる体験へとつながります。

体験の機会格差が、自信の格差になる

しかし、「できた体験」の機会は家庭の経済状況によって大きく異なります。家庭にパソコンがある子どもとない子どもでは、放課後に積み上げられる体験の量と種類が根本的に違います。デジタル機器に親しむ機会の差は、そのまま自己効力感を育む機会の差に直結します。

学校の授業だけでは補えない部分があります。週に数回の授業時間では、「自分のペースで試行錯誤する」体験を十分に積むことは難しい。家に帰っても試せる環境があるかどうか——この差が、長い時間をかけて子どもの自信の差になります。

データで見る日本の子どもの自己肯定感

・「今の自分が好きだ」:日本17.5% / アメリカ57.9% / ドイツ61.6%
・「自分には長所がある」:日本が5カ国中最低
・「自分自身に満足している」:日本が5カ国中最低
(出典:こども家庭庁「令和5年度 我が国と諸外国のこどもと若者の意識に関する調査」)

できた体験を、全ての子どもへ

「今の自分が好きだ」と言える子どもを増やすために必要なのは、言葉の励ましではなく、実際に手を動かし、結果を受け取り、少しずつ上達する場です。それは、特別な才能がある子どもだけに用意された場ではなく、全ての子どもがアクセスできる場でなければなりません。

デジタルこどもBASEは、パソコンを持たない子どもたちに「できた体験」を届けることを活動の中心に置いています。道具を手に入れることではなく、道具を使って何かを生み出す体験の積み重ね——その一つひとつが「自分はできる」という感覚を育て、30年後まで続く自信の土台になります。

参考資料

著者:漆谷 智行(デジタルこどもBASE理事長)