歴史的仮名遣いとは
ルール1 ── 語頭以外のハ行は「ワ行」で読む
もっとも頻出のルールです。単語の最初以外に出てくる「は・ひ・ふ・へ・ほ」は、「わ・い・う・え・お」と読みます。
①いふ(言ふ) → いう(言う)
②なほ → なお
③あはれ → あわれ
④かひ → かい
⑤こへ(声) → こえ
- 「はる(春)」「ひと(人)」── 語の最初のハ行 はそのまま「は・ひ」と読む。
- 「はるか」── 最初の「は」はそのまま、間にハ行はないので変換なし。
ルール2 ── ゐ・ゑ・を
古文には「ゐ」「ゑ」「を」という、現代では使わない仮名があります。読み方は次のとおり。
ゐ「ゐ」(ヰ) → 「い」と読む(例:ゐる → いる)
ゑ「ゑ」(ヱ) → 「え」と読む(例:こゑ → こえ)
を「を」 → 「お」と読む(例:をとこ → おとこ)
「を」が「お」になるのは 語のどこにあっても 起こります(をとこ→おとこ・をどる→おどる)。現代でも使う 助詞の「を」 だけは、書き方はそのまま「を」で、発音だけ「お」になります。
ルール3 ── ぢ・づ
古文では「ぢ」「づ」が、現代より広く使われていました。読みはそれぞれ「じ」「ず」。
はぢ → はじ(恥)
みづ → みず(水)
いづこ → いずこ(どこ)
ルール4 ── くわ・ぐわ
「くわ」「ぐわ」は 「カ」「ガ」 と読みます。
くわじ(火事) → かじ
ぐわいこく(外国) → がいこく
ルール5 ── 長音「au・iu・eu・ou」
これは少し難しめのルール。母音が連続するとき、現代では伸ばす音(長音)になります。
| 古文の表記 | 現代の読み | 例 |
|---|---|---|
| au(あう) | ô(オー) | あふぎ → おうぎ(扇) |
| iu(いう) | yû(ユー) | きふ → きゅう(急) |
| eu(えう) | yô(ヨー) | けふ → きょう(今日) |
| ou(おう) | ô(オー) | そう → そう(そのまま) |
注意:この表は読み方(発音)のルールで、書き方(表記)まで必ず同じように変わるとは限りません。たとえば動詞「言ふ」は現代仮名遣いでも「いう」と書きます(「ゆう」とは書きません)。一方「けふ(今日)」のように、書き方自体が「きょう」に変わる語もあります。読み(発音)と書き方(表記)は別に考えましょう。
- 「けふ」 = ke + fu
- まずルール1で「ふ」が「う」に → 「けう」 = ke + u
- 「eu」 → 「yô(よー)」 → 「きょう」
- 2段階の変換が起きている。
ルール6 ── 助動詞「む」
古文の助動詞「む」(推量)は 「ん」と読みます。
行かむ → 行かん(行こう)
あらむ → あらん(あろう)
例文で変換練習
古:いまは むかし、たけとりの おきな と いふ もの ありけり。
現:いまは むかし、たけとりの おきな と いう もの ありけり。
「いふ」→「いう」(ルール1)のみ変換。「むかし」「おきな」「ありけり」はそのまま。
教科書で確認した古文音読のコツ
- 歴史的仮名遣いは、古文を現代の発音に直して読むための入り口。
- 語中・語尾の「は・ひ・ふ・へ・ほ」は、ワ行音に直すことが多い。
- 長音化する「あう・いう・えう・おう」は、意味より先に音の変化を確認する。
- 音読では「けふ」を「きょう」と読むが、原文の表記は「けふ」のまま扱う。
- 書き下し文や古文本文を写す問題では、歴史的仮名遣いを残す場合がある。
この章でつまずきやすいところ
歴史的仮名遣いは「書く文字」と「読む音」がずれているのが特徴です。古文を音読したり訳したりする途中で、ハ行の扱いや長音の変換でつまずく場面がよく出てきます。ここで触れる「ルール1〜5」は、教科書で習う歴史的仮名遣いの6つのルールのうち、仮名づかいそのものに関わる5つのルール(ルール1:語中・語尾のハ行→ワ行、ルール2:ゐ・ゑ・を→い・え・お、ルール3:ぢ・づ→じ・ず、ルール4:くゎ・ぐゎ→か・が、ルール5:母音の連続→長音)を前提にしています。ルール6(助動詞「む」→「ん」)は仮名づかいというより助動詞の読み替えなので、ここでは扱いません。本文を読んでいるその瞬間に起きる迷いを4つ整理します。
語頭の「は」まで「わ」に直してしまう
- つまずく場面:「はべり(お仕えする)」「はかなし」と古文に出てくると、ルール1(語中・語尾のハ行をワ行に直す)を思い出して反射的に「わべり」「わかなし」と読みそうになる。語中・語尾のハ行と語頭の「は」の区別がつかず、語の最初のハ行まで機械的に置き換えて、音読が不自然になる場面。
- 克服のコツ:位置関係で見分けます。語の最初の文字かどうかをまず確認し、語頭のハ行はそのまま、二文字目以降のハ行だけをワ行に直すと決めると安定します。「は」を見たら反射で動かさず、語の何文字目かを指で押さえる習慣にするとよいです。
- ミニ例:「はべり」では、最初の「は」は語頭なのでそのまま、間にハ行はないので変換なし。一方「あはれ」の「は」は語中なので「あわれ」と読みます。
「けふ」を「けう」で止めてしまう
- つまずく場面:「けふ」と本文にあると、ルール1(語中・語尾のハ行をワ行に直す)で「ふ→う」と直して「けう」で答えにしてしまう。ルール5(母音の連続を長音にする)まで進まず、現代の読みである「きょう」までたどりつけない。音読中に「けう?」と止まってしまう場面。
- 克服のコツ:時系列で2段階に分けて処理します。まず第1段階でハ行を直し(けふ→けう)、次に第2段階で日本語の段に着目して長音に直す、と順番を固定します。具体的には、エ段+うは「ヨー」、ア段+うは「オー」、オ段+うは「オー」と伸ばすと覚えると、ローマ字を使わずに処理できます。
- ミニ例:「けふ」→ ルール1で「けう」→ 「け」はエ段+「う」なので「ヨー」と伸ばして「きょう(今日)」。「あふぎ」→ ルール1で「あうぎ」→ 「あ」はア段+「う」なので「オー」と伸ばして「おうぎ(扇)」と二段で直します。
「を」を全部「お」と読み替えてしまう
- つまずく場面:「をとこ」「をかし」と並んでいると、ルール2(ゐ・ゑ・を→い・え・お)で「を→お」と覚えているので、文中の助詞の「を」まで「お」と読んでしまう。逆に、助詞だけ意識しすぎて「をどる」「をかし」のような語の中の「を」まで「を」のまま残し、現代語訳が不自然になる場面もある。
- 克服のコツ:位置ではなく働き(品詞)で区別します。名詞・動詞などの一部にある「を」は、語のどこにあってもすべて「お」に直します(をとこ→おとこ・をどる→おどる)。例外は助詞の「を」だけで、これは現代でも表記上「を」のまま書きます(発音は「お」)。
- ミニ例:「をとこ」「をどる」はどちらも語の中の「を」なので「おとこ」「おどる」と直します。一方「花を見る」の「を」は助詞なので、表記としては「を」のまま扱います。
読みを直しただけで現代語訳が終わったと思ってしまう
- つまずく場面:「いふもの ありけり」を「いうもの ありけり」と直したところで満足してしまい、現代語訳の欄に「いうものありけり」とそのまま書いてしまう。仮名遣いだけ整えて、古語の意味や文の働きを訳していない場面。
- 克服のコツ:因果関係で順番を意識します。仮名遣いの変換は入口であって、訳ではありません。読みを直したあとに、古語の意味と文中での働きを確認してから訳をつくる、と二段構えに決めます。「仮名遣いを直す問題」と「現代語訳の問題」は別々に出されることが多いので、二段構えで取り組みましょう。
- ミニ例:「いふもの ありけり」→ 読み直すと「いうもの ありけり」→ 訳すと「~という者がいた」。読みと訳は別の作業だと意識して進めます。
練習問題
- あはれ
- こゑ
- みづ
- いふ
- けふ
- をとこ
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(1) あわれ(ルール1:語中の「は」→「わ」)
(2) こえ(ルール2:ゑ→え)
(3) みず(ルール3:づ→ず)
(4) いう(ルール1:語中の「ふ」→「う」)
(5) きょう(ルール1で「けう」、ルール5で「きょう」)
(6) おとこ(ルール2:を→お)
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おうぎをひろげて、なおうつくしゅうこそ。
- あふぎ → おうぎ(語中「ふ」→「う」、「au」→「おう」)
- なほ → なお(語中「ほ」→「お」)
- うつくしう → うつくしゅう(語中「う」のまま+「iu」→「ゅう」)
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そのまま「はる・ひと・ふね」。語頭のハ行はワ行に変えない(ルール1の例外)。
まとめ
- 歴史的仮名遣いは古文の書き方。読むときは現代仮名遣いに直す。
- ルール1:語中・語尾のハ行 → ワ行(いふ→いう)。語頭は変えない。
- ルール2:ゐ→い/ゑ→え/を→お(語のどこにあっても。助詞の「を」は今もそのまま書く)。
- ルール3:ぢ→じ/づ→ず。
- ルール4:くわ→か/ぐわ→が。
- ルール5:au→ô/iu→yû/eu→yô/ou→ô(けふ→きょう)。
- ルール6:助動詞「む」→「ん」。
もっと知る ── 発展・実生活(出典つき)
※ 教科書の内容に、信頼できる出典をもとにした発展・実生活・時事の話題を補足しています(教科書そのものではありません)。
「現代仮名遣い」は国が決めたきまり発展
今わたしたちが使う「現代仮名遣い」は、昭和61年(1986年)に内閣告示として国が示した、現代の国語を書き表すためのよりどころです。それ以前に社会一般で使われていた歴史的仮名遣いは、いまも「我が国の歴史や文化に深いかかわりをもつものとして尊重されるべきもの」と位置づけられています。古文の仮名遣いは、ただ古いのではなく公式に大切にされてきた表記なのです。
仮名遣いが変わったのは「学ぶ負担」を軽くするため発展
歴史的仮名遣いは実際の発音と書く文字がずれるため、子どもには覚えにくいという声がありました。そこで昭和21年(1946年)の内閣訓令では、新しい仮名遣いの目的を「教育上の負担を軽くし、国民の生活能率をあげ、文化水準を高める」ためと示しています。発音どおりに書く方向へ改められたことが、いまの仮名遣いにつながっています。
「こんにちは」の「は」が「わ」と読める理由実生活
「こんにちは」「こんばんは」を「わ」と読むのは、もとが「今日はご機嫌いかが」のように、あいさつの後半が省略されて残った助詞の「は」だからです。語中・語尾のハ行を「わ・い・う…」と読む古文のルールと同じ仕組みが、毎日のあいさつに生きています。現代仮名遣いでも助詞の「は」はそのまま「は」と書くと国が定めています。
百人一首・競技かるたは古い仮名遣いの和歌実生活
お正月などに親しむ小倉百人一首は、平安・鎌倉期の和歌を集めたもので、もとは歴史的仮名遣いで書かれています。一方、全日本かるた協会が広める競技かるたの取り札は下の句だけがひらがなで書かれ、子どもにも分かりやすいよう現代仮名遣いで印刷されているものもあります。同じ和歌でも「書く文字」と「読む音」を意識する点は古文の学習と同じです。
そば屋の看板の読めない字「変体仮名」実生活
そば屋の暖簾やうなぎ屋の看板で見かける読みにくい字は「変体仮名」とよばれ、たとえば「そば」を「楚ば」と書きます。江戸時代の寺子屋や明治前半の小学校では変体仮名が日常的に使われていましたが、明治33年(1900年)に平仮名が一音一字に統一されたため、いまは古い看板などに残るだけになりました。歴史的仮名遣いと同じく、昔の文字文化が今も街角に生きている例です。
竹取物語の原文を図書館で見てみよう発展
教科書に出てくる「いまは昔、竹取の翁といふもの…」で始まる竹取物語は、国立国会図書館デジタルコレクションで、江戸時代のはじめ(慶長年間)に印刷された一番古い刊本(古活字版)の画像を無料で見ることができます。印刷された昔の文字には歴史的仮名遣いがそのまま残っているので、「いふ」などの表記を本物の資料で確かめられます。音読では現代の音に直しても、原文の文字はそのまま扱う、という学習内容を実物で体感できます。
