置き換え(カタマリの導入)
同じカタマリが繰り返し出てくる式は、そのカタマリを1文字 M(または A)に置き換える。すると公式の形に変身します。
x + y = M と置く
(M + 2)(M − 2)
= M² − 4 ← 和と差の積
M を戻す:(x + y)² − 4
= x² + 2xy + y² − 4
a − b = M と置く
(M + 3)² = M² + 6M + 9
M を戻す:(a − b)² + 6(a − b) + 9
= a² − 2ab + b² + 6a − 6b + 9
3項の積 ── (a + b + c)(d + e + f) など
置き換えできない3項どうしの積は、すべての項の組み合わせを書き出す。3項×3項なら9つの項。
9個の積を全部作る:
x·x + x·(−y) + x·3 + y·x + y·(−y) + y·3 + 2·x + 2·(−y) + 2·3
= x² − xy + 3x + xy − y² + 3y + 2x − 2y + 6
同類項:−xy + xy = 0、3x + 2x = 5x、3y − 2y = y
= x² − y² + 5x + y + 6
共通部分があるときの置き換え
a² − b² の形(a = x+2y, b = x−2y)
= (a + b)(a − b) ← 和と差の積を逆向き
a + b = (x+2y) + (x−2y) = 2x
a − b = (x+2y) − (x−2y) = 4y
= 2x · 4y = 8xy
かっこを含む複雑な展開
2つずつ順番に展開する。まず (x+1)(x+2)
= x² + 3x + 2
これに (x+3) をかける
(x² + 3x + 2)(x + 3)
= x³ + 3x² + 3x² + 9x + 2x + 6
= x³ + 6x² + 11x + 6
符号を間違えない工夫
- −(a + b)² は、先に (a+b)² を展開してから、全体に −1 をかける。つまり −(a² + 2ab + b²) = −a² − 2ab − b²。
- 例:(x+3)² − (x−2)² → (x²+6x+9) − (x²−4x+4) = 6x+9+4x−4 = 10x + 5。後ろの ( ) の中身すべてに −1 がかかるのがミソ。
- (x − 2)² の展開で、最後の項は (−2)² = +4。最終的に x² − 4x + 4(真ん中だけマイナス)。
計算の工夫 ── 暗算ショートカット
99 = 100 − 1 と見て、(100 − 1)²
= 100² − 2·100·1 + 1²
= 10000 − 200 + 1
= 9801
53 × 47 = (50 + 3)(50 − 3) ← 和と差の積
= 50² − 3²
= 2500 − 9
= 2491
展開公式の応用パターン
- (a + b + c)² = a² + b² + c² + 2ab + 2bc + 2ca(3項の2乗)
- (x² − 1) 型:(x+1)(x−1) を見つけて展開
- (x+a)(x+b):x² + (a+b)x + ab
- (ax+b)(cx+d):acx² + (ad+bc)x + bd
- 同じカタマリが 複数回出てきたら置き換えのチャンス
- (x+y+1)(x+y−1):x+y を M に置き換え → (M+1)(M−1) = M² − 1
- 置き換えるカタマリは、式の両方に共通して見える部分を選ぶ。迷ったら、同じ並びの文字や式を線で囲んで探す。
- 置き換え後は 必ず元に戻すこと(最終的に展開して整理)
- (a + b + c)² の場合:
- = a² + b² + c² + 2(ab + bc + ca)
- 各項の2乗 + 各組合せの2倍
- 例:(x+y+2)² = x² + y² + 4 + 2xy + 4y + 4x
この章でつまずきやすいところ
展開の応用は、公式そのものより「式のどこをひとかたまりと見るか」で迷いが生まれます。読み進めている最中につまずきやすい場面を4つ取り上げ、迷いの正体と整理の手がかりを示します。
置き換えたMをそのまま答えにしてしまう
- つまずく場面:例題で (x+y+2)(x+y−2) を x+y=M と置いて M²−4 まで進んだところで、「これで終わり?」と手が止まる。本文の途中で M のまま書き残してしまい、最終形が見えなくなる場面。
- 克服のコツ:時系列で整理する。置き換えは「途中計算の道具」なので、(1)共通のかたまりを M に置く →(2)公式で展開する →(3)必ず M を元の式に戻す →(4)残った () を展開して同類項をまとめる、の順に進める。M のまま終われば、それは答えではなく途中式と覚える。
- ミニ例:(x+y+2)(x+y−2) は M²−4 で止めず、M=x+y を戻して (x+y)²−4 = x²+2xy+y²−4 まで進めて完成。
(a+b+c)² で 2倍項を一部書き落とす
- つまずく場面:本文の (x+y+2)² の展開を追っているとき、x² と y² と 4 までは書けるが、2xy・4y・4x のうち1つを書き忘れて式が短くなる。「2乗だから各項を2乗するだけ」と思い込んで読み進めてしまう場面。
- 克服のコツ:位置関係で整理する。3項の2乗は「各項の2乗3つ」+「異なる2項の組み合わせを2倍したもの3つ」で必ず6個の項が出る。a・b・c を縦に並べ、ab・bc・ca の3組を順に書き出す表をイメージすると、漏れに気づきやすい。
- ミニ例:(x+y+2)² は x²+y²+4 だけでなく、2·xy+2·y·2+2·2·x を足して x²+y²+4+2xy+4y+4x の6項で完成。
かっこ前のマイナスを先頭の項にしかかけない
- つまずく場面:(x+3)² − (x−2)² を読んでいる途中、(x+3)² を展開した後、引く側の (x−2)² を x²−4x+4 まで出せても、マイナスを x² にだけかけて −x²−4x+4 と書いてしまう。引き算の範囲がどこまでか迷う場面。
- 克服のコツ:位置関係で整理する。マイナスは ( ) の中身すべてにかかると決め打ちする。手順は(1)後ろの ( )² を先に展開する →(2)展開後の式を ( ) でくくり直す →(3)その ( ) 全体に −1 を分配する、の順。途中で ( ) を消さないのがコツ。
- ミニ例:(x+3)²−(x−2)² は (x²+6x+9)−(x²−4x+4) と一度くくり、−1 を全体に分配して x²+6x+9−x²+4x−4=10x+5。
数の工夫で基準からの差の符号を取り違える
- つまずく場面:99² を暗算する場面で 99=100−1 と置けたのに、(100−1)² を展開する途中で −2·100·1 のマイナスを落として +200 と書き、答えが 10201 になってしまう。基準の100と差の1のどちらが正・負か曖昧なまま読み進める場面。
- 克服のコツ:因果関係で整理する。基準より小さい数は「−」、大きい数は「+」と先に符号を決めてから公式に当てはめる。(100−a)² なら真ん中の −2·100·a は必ずマイナス、(100+a)² なら必ずプラス、と公式と符号をセットで覚えると暗算でもズレない。
- ミニ例:97² は 97=100−3 なので (100−3)²=10000−600+9=9409。101² なら 101=100+1 で +200 になる。
練習問題
- (x + y + 3)(x + y − 3)
- (a − b + 1)²
- (x + y)² − (x − y)²
答えを見る
(1) (M+3)(M−3) = M²−9 = (x+y)²−9 = x² + 2xy + y² − 9
(2) (M+1)² = M²+2M+1 = (a−b)²+2(a−b)+1 = a² − 2ab + b² + 2a − 2b + 1
(3) {(x+y)+(x−y)}·{(x+y)−(x−y)} = 2x·2y = 4xy
- (x − 1)(x + 1)(x² + 1)
- (a + b)(a + b + c)
答えを見る
(1) (x−1)(x+1) = x²−1。続いて (x²−1)(x²+1) = x⁴−1 → x⁴ − 1
(2) a² + ab + ac + ab + b² + bc = a² + 2ab + b² + ac + bc
- 101²
- 62 × 58
- 97²
答えを見る
(1) (100+1)² = 10000+200+1 = 10201
(2) (60+2)(60−2) = 3600−4 = 3596
(3) (100−3)² = 10000−600+9 = 9409
まとめ
- 同じカタマリが繰り返すとき:M で置き換えると公式の形に。
- 3項×3項:すべての組み合わせ 9個の項 を作って同類項整理。
- かっこ前のマイナスは、かっこの中を展開した後に全体に −1。
- 計算の工夫:99² や 53×47 のような数値計算も、和と差の積や (100±a)² で速攻処理できる。
もっと知る ── 発展・実生活(出典つき)
※ 教科書の内容に、信頼できる出典をもとにした発展・実生活・時事の話題を補足しています(教科書そのものではありません)。
(a+b)² の先にある「二項定理」とパスカルの三角形発展
中学で覚える (a+b)²=a²+2ab+b² は、高校では (a+b)ⁿ を一気に展開する「二項定理」へとつながります。その各項の係数は、両端を1にして隣り合う数を足していく「パスカルの三角形」でかんたんに求められ、いちいち何度もかけ算しなくても展開できます。
江戸時代の和算でも使われた「二乗の式」発展
日本独自の数学「和算」では、江戸時代にすでに二乗を含む式が解かれていました。たとえば「大小2つの正方形の面積の和が34歩、一辺の差が2寸のとき小さい正方形の一辺は?」という問題は、一辺をxとして x²+(x+2)²−34=0 を展開・整理して解いています。今みなさんが学ぶ展開の考え方が、何百年も前から実際に活躍していたのです。
「かけ算は簡単・逆は難しい」が暗号を守る発展
2つの数をかけて積を作るのは簡単ですが、できた大きな数を元の素数の積にもどす「素因数分解」はとても時間がかかります。インターネットで広く使われるRSA暗号は、この「巨大な合成数の素因数分解は実用的な時間では難しい」という性質を安全性の土台にしています。展開とその逆の難しさの差が、社会を支えているのです。
99² や 53×47 を速算する暗算の文化実生活
(100−1)² や (50+3)(50−3) のように公式を使うと、99²=9801 や 53×47=2491 のような計算が頭の中だけで素早くできます。こうした暗算の力を測る検定として、文部科学省が後援する全国珠算教育連盟の暗算検定などがあり、計算を多く扱う仕事でも役立つとされています。式の工夫は、テストだけでなく日常の素早い計算にも直結します。
正方形の面積=(一辺)² と住まいの広さ実生活
正方形の面積は一辺×一辺、つまり (一辺)² で表せ、部屋や土地の広さは平方メートル(m²)で示されます。国の「住生活基本計画」では、一人暮らしで健康で文化的な生活を送るための広さの目安として専有面積25m²が示されており、これは一辺5mの正方形(5²=25)と同じ広さです。二乗の式は、暮らしの空間の大きさをイメージする道具にもなります。
