動いていない物にも力ははたらいている
机の上に置かれた本は、何時間経っても勝手に動き出すことはありません。けれど、本にはたしかに 重力(地球が下向きに引く力)がはたらいています。それなのに本が落ちないのは、机が本を 上向きに押し返している からです。この上向きの力を 垂直抗力(すいちょくこうりょく) といいます。
つまり、本にはたらく2つの力が ちょうど打ち消し合っている ので、合計の力は0になり、本は動きません。これを「2力がつり合っている」といいます。
- 静止している物体にも、ふつうは複数の力がはたらいている。
- 動かないのは、はたらいている力たちが 打ち消し合って、合計が0 になっているから。
- 等速直線運動(同じ速さで同じ向きに動き続ける運動)の場合も同じく、力はつり合っている。
2力のつり合いの3条件
2つの力がつり合うためには、次の 3つの条件すべて を満たさなければなりません。1つでも欠けると、物体は動き出したり、回り出したりします。
条件①2力の 大きさが等しい
条件②2力の 向きが反対
条件③2力が 同じ一直線上にある(同じ作用線上)
3つすべてを満たして初めて、物体は静止する(または等速で動き続ける)。
条件を1つずつ確認
3つの条件のどれが欠けると、物体はどう動くのでしょうか。1つずつ見ていきます。
- 本にはたらく重力が5Nなのに、机の垂直抗力が3Nしか出せなかったら、合計2Nの下向きの力が残る。
- その結果、本は下に押し込まれる(実際には机が壊れる)。
- 大きさがそろっていないと、強い方向に物が動く。
- 2人で同じ向きにロープを引けば、力は 足し算 されて、ロープはその方向に強く引かれる。
- 反対向きでないと、打ち消し合うことができず、つり合いにならない。
- 大きさも向きも条件を満たしていても、2力が ずれた位置 ではたらくと、物体は回転を始める。
- 例:1枚の紙の上の端と下の端を、それぞれ反対向きに同じ大きさで引っ張ると、紙はねじれて回る。
- 「同じ一直線上」とは、2つの矢印を伸ばしたときに 1本の直線にぴったり重なる こと。
身のまわりの2力のつり合い例
身近な場面でも、2力のつり合いはたくさん見つかります。「重力とそれを支える力」のセットで考えるのがコツです。
- 重力(下向き)と 垂直抗力(上向き)がつり合う。
- 重力(下向き)と、ばねが引き上げる 弾性力(上向き)がつり合う。
- ばねばかりの目盛りが、はたらく重力の大きさを示している。
- 押す力(横向き)と、床との間の 摩擦力(逆向き)がつり合っている間は、箱は動かない。
- 摩擦がほとんどないので、横からの力とつり合う相手がない。押されたら止まらず、すべり続ける。
物体に3つ以上の力がはたらいているとき
机の上の本を、横から指で押している場面を考えてみます。本にはたらいている力は4つ:
- 重力(下向き)/ 垂直抗力(上向き)
- 押す力(横向き)/ 摩擦力(逆向き)
このとき、上下の2力がつり合い、横方向の2力もつり合っているなら、本は動きません。「2組のつり合い」 が同時に成り立っているわけです。
3つ以上の力をひとまとめにする「合力(ごうりょく)」や「分力(ぶんりょく)」という考え方は中3で学習しますが、中1の段階では 「2力ずつ組にして見れば、つり合いは判断できる」 と覚えておけば十分です。
等速で動いている物にも力はつり合っている
つり合いが成り立つのは、止まっている物だけではありません。一定の速さで一定の向きに動き続けている物(等速直線運動)でも、はたらく力はつり合っています。
- モーターが生む 前向きの推進力 と、空気抵抗・車輪の摩擦力(逆向き)がつり合う。
- 合計の力が0だから、速さも向きも変わらず、同じ速さで走り続けられる。
- 正しくは「つり合い=合力が0」。
- 合力が0なら、止まっている物は止まったまま、動いている物は 同じ速さで同じ向きに動き続ける。
- この性質は 慣性の法則 と呼ばれ、中3で詳しく扱う。
この章でつまずきやすいところ
「動いていない物体には力がはたらいていない」と思い込みやすい単元です。本文を読みながら、重力・垂直抗力・つり合いの3条件で頭が止まりやすい場面を取り上げ、迷いをほどく見方を整理します。
「動かない=力がはたらいていない」と思い込んでしまう
- つまずく場面:本文で「机の上の本はいつまでも動かない」と読んだ瞬間、「動かないのだから力ははたらいていないのでは?」と感じ、そのあとに出てくる重力や垂直抗力の話とつながらず、読み進める手が止まってしまう。
- 克服のコツ:因果関係で整理する。動かない原因は力ゼロではなく、合力がゼロ。下向きの重力と上向きの垂直抗力がそれぞれはたらいたうえで、ちょうど打ち消し合っている結果として動かない、という順で読むと本文の流れにきれいに乗れる。
- ミニ例:机の上の本では、重力(下向き)と垂直抗力(上向き)の両方が同時にはたらいていて、合計が0Nになるから動かない。力がないのではなく「足して0」と読み替える。
つり合いの3条件のうち「同一直線上」を見落としてしまう
- つまずく場面:本文で「大きさが等しい・向きが反対」と読んだ時点で、つり合いの条件をもう全部わかった気になり、3つ目の「同じ一直線上(同じ作用線上)」を読み飛ばしてしまう。その後、紙の端を反対向きに引くと回る話が出てきて、なぜ回るのか分からなくなる。
- 克服のコツ:位置関係で整理する。2本の矢印を伸ばしたとき1本の直線にぴったり重なるかどうかを必ず確かめる癖をつける。大きさと向きが合っていても、作用点がずれていれば回転してしまい、つり合いにはならない、と3つセットで覚える。
- ミニ例:大きさ・向き・同一直線上の3条件すべてがそろって初めてつり合いになる。紙の上端と下端を反対向きに同じ大きさで引くと、3条件目が欠けるので紙はねじれて回る。
「重力と垂直抗力」を作用・反作用のペアと混同してしまう
- つまずく場面:机の上の本の図を見て、下向きの重力と上向きの垂直抗力が同じ大きさで反対向きに描かれているのを見た瞬間、「これって作用・反作用と同じでは?」と感じ、つり合いと作用・反作用の区別がつかなくなる。
- 克服のコツ:見分け方で整理する。つり合いは同じ物体にはたらく2力、作用・反作用は違う2つの物体が及ぼし合う2力。矢印を見たら「どの物体にはたらいているか」を必ず確認する。重力も垂直抗力も主語は本なので、同じ本にはたらく2力=つり合いと判断できる。
- ミニ例:机の上の本で、本にはたらく重力と本にはたらく垂直抗力はどちらも主語が本だからつり合い。本が机を押す力と机が本を押す力は主語が違うので作用・反作用。
等速直線運動でも力がつり合っていることが受け入れられない
- つまずく場面:本文で「等速で走っている電車も、はたらく力はつり合っている」と読んだとき、「動いているのにつり合っているってどういうこと?」と引っかかり、止まる=つり合い、動く=つり合っていない、というイメージから抜け出せず先に進めなくなる。
- 克服のコツ:因果関係で整理する。つり合い=動かないではなく、つり合い=合力が0。合力が0なら、止まっている物は止まったまま、動いている物は同じ速さ・同じ向きで動き続ける。「静止か等速直線運動が続く」を1セットで読み替える。
- ミニ例:等速で走る電車では、モーターの推進力(前向き)と空気抵抗や摩擦力(後ろ向き)がつり合っている。合計が0なので、速さも向きも変わらず走り続ける。
練習問題
- 同じ大きさで、向きが反対、同じ一直線上にある2力
- 同じ大きさで、向きが反対だが、作用線がずれている2力
- 大きさが2倍違うが、向きは反対で、同じ一直線上にある2力
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(1) つり合っている(3条件すべて満たす)
(2) つり合っていない。条件③(同じ一直線上にある)が欠けている。物体は 回転 し始める。
(3) つり合っていない。条件①(大きさが等しい)が欠けている。大きい方の力の向きに物体が動く。
- 2力がつり合うための3条件をすべて答えなさい。
- 机の上の本が動かない理由を、はたらいている力の名前と矢印の向きを使って説明しなさい。
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(1) ①2力の 大きさが等しい ②2力の 向きが反対 ③2力が 同じ一直線上にある(同じ作用線上にある)
(2) 解答例:本には地球が引く重力が下向きにはたらいているが、同時に机が本を押し返す垂直抗力が上向きに、同じ大きさで、同じ一直線上にはたらいている。2力がつり合いの3条件をすべて満たしているため、合力は0になり、本は動かない。
- ばねばかりが示す値は何Nか。
- このときこの物体にはたらいている力をすべて挙げ、それぞれの大きさと向きを書きなさい。
- この物体が静止している理由を、2力のつり合いの言葉で説明しなさい。
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(1) 500g = 100g × 5。重力は 1N × 5 = 5N。物体は静止しているので、ばねが引き上げる弾性力も5Nで、ばねばかりは 5N を示す。
(2) ・重力:5N、下向き ・ばねの弾性力:5N、上向き
(3) 解答例:下向きの重力5Nと上向きの弾性力5Nが、大きさが等しく、向きが反対で、同じ一直線上にはたらいている。3条件をすべて満たしているのでつり合っており、合力が0になるため物体は静止している。
まとめ
- 動いていない物にも、ふつうは複数の力がはたらいている。動かないのは 合力が0 だから。
- 2力がつり合う 3条件:①大きさが等しい ②向きが反対 ③同じ一直線上にある。
- 条件①が欠けると強い方へ動き、②が欠けると足し算で動き、③が欠けると 回転 する。
- 身近な例:机の上の本(重力と垂直抗力)、つるした重り(重力と弾性力)、止まった箱(押す力と摩擦力)。
- 等速直線運動の物体も、はたらく力はつり合っている。「つり合い=動かない」ではなく 「つり合い=合力0」。
もっと知る ── 発展・実生活(出典つき)
※ 教科書の内容に、信頼できる出典をもとにした発展・実生活・時事の話題を補足しています(教科書そのものではありません)。
宇宙ステーションで物が浮くのは「重力ゼロ」だからではない発展
国際宇宙ステーション(ISS)は地表に近い軌道を回っているため、はたらく重力は地上の約9割も残っています。それでも中の物が浮くのは、ISSが地球を回る運動で生じる効果(遠心力)と重力がつり合い、見かけの重力がゼロになっているからです。地上から見ればISSは落ち続けていて、中の人も物も同じように落ちるため、つり合って浮いて見えるのです。
エレベーターの「つり合いおもり」で力を節約する実生活
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深海調査船は重さと浮力のつり合いで沈んだり浮いたりする実生活
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「2力のつり合い」と「作用・反作用」はどう違う?発展
2力のつり合いは、同じ1つの物体にはたらく2つの力の関係で、合力が0になって物体が動かない状態を表します。一方、作用・反作用は、別々の2つの物体の間ではたらく力の関係で、相手を押すと同じ大きさで反対向きに押し返されるという法則です。どちらも大きさが等しく向きが反対ですが、力がはたらく相手の物体が同じか別かで区別します。
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走っている自動車には、エンジンやモーターが生む前向きの駆動力と、それを邪魔する空気抵抗やころがり抵抗などの「走行抵抗」がはたらいています。これらがちょうどつり合うと合力が0になり、速さも向きも変わらず一定の速さで走り続けられます。つり合いは止まっている物だけでなく、等速で動き続ける物にも成り立つ良い例です。
